記憶に残らなくなっていくセックスについて

 酒を飲んでいたわけでもないのにほとんど記憶に残っていないセックスがある。

 いや、記憶には残っているんだけどたぶん印象に残っていないんだ。あの子が家に来た所までははっきり覚えてる。俺だってそんなにめちゃくちゃ慣れてるってわけじゃないから『家に来る?』って誘ったのは俺だけどそんな風に簡単に頷かれる事にまだ不思議な感じがした。だって付き合ってるわけでもないから。ドキドキもした。

 でもそういう世界があるってことはだいぶ知って来たところだったし、まあお互い下心もあるっていうか、飲んでる間恋愛の話になって、お互い恋人を作るつもりは無くて、それでセックスが結構好きっていう話とか体位の話とかになった。だからオッケーっていうのはなんとなくお互い分かってた。

 それで家に来て、簡単にシャワーを浴びて、セックスをした。そのセックスの印象がすごく薄い。キスをしなかったのは覚えてる。あとはなんか、触って、濡れてて、フェラされて、お互いその気で、俺が腰を振って、終わった。

 いや、もっと具体的に思い出してみたら覚えてるんだ。声もまだ聞こえる。甲高い喘ぎ声が気持ちいいって俺に言ってるし、おっぱいは大きくて頬のところにほくろが二つあった。俺がおっぱいを触ると気持ちよさそうだったし、あそこを触っても気持ちよさそうだった。俺も気持ちよかった。

 でも全然覚えていない。覚えていないのは俺がそれなりにセックスをし始めたからなのだろうか。印象が薄くなっている。

 スマホを見るとその子からのLINEの通知が俺に来ている。『今日暇なんだけど、良かったら飲まない?』お誘いだ。誘ってる。でもなんで?俺は恰好良いのだろうか。あの日俺とのセックスはそんなに良かったのだろうか。いや、そういうわけでは無いと思う。もしかしたら俺の前に何人かに声をかけたのかもしれないし、俺と一緒に何人かに声をかけているのかもしれない。そういう風に考えるとなんだか嫌だ。付き合っているわけでもないけど、自分がないがしろにされている様で嫌になる。

 でも俺もだいぶん人の事をないがしろにしている。こんなことはやめた方がいい。

 辞めないでいられる人はどんな気持ちなんだろう?こんな気持ちなんだろうか。辞めた方がいいよな辞めよう辞めようって思いながらまたセックスするんだろうか。

 セックスが昔思ったほどすごいものじゃないってわかって来るこの気持ちは、人生が以外と退屈だって事に本当に気が付いていくのと似た気持ちだ。いや、退屈じゃ無い日ともいるのかもしれない。でも俺は違う。

 どうしよう、と思いながら俺はLINEの通知を見ている。それからそのLINEのトークを開く。俺は返信する。『いいよ』

 しばらく既読がつかなかった。頭の中でふわふわ思う。もしかして、この子も同じ気持ちなんだろうか。なんだかつまらないような、悲しいような、何かがさび付いていくような気持ちの中でLINEの通知画面を見ていたりするんだろうか。せめてそうであって欲しい。

 そしてしばらくして、LINEに『ごめん!』と返信がついた。『急に用事できちゃった』

 俺はバタンと家の床に転がる。天井を見上げたまま『あーあ、だったらさっさと返信すればよかったよ』などと、世界で一番つまらない事を思う。

タイトルとURLをコピーしました