人生で二人目のセックスでなんだかわからなくなった話。

『もう、すっごいうまいから!』

 というのが真紀さんの言葉だった。私が会ったスーツ姿のその人は、大きな会社で営業をしているとの事で、ネズミが籠の中のチーズを得るためにする駆け引きを例にして面白おかしく自分が人生で得た教訓の話をした。私は予約されたレストランで初めて食べるカンガルーの肉を食べ、それなりにお酒を飲んだ。そして食事が終わると、腰に手を回した彼の歩くままにホテルに入った。

 私の人生で二人目のセックスは、私が19歳の時こうして行われた。

 『ああ、こうやって話すんだ……』『ああ、こうやって何気なく触れるんだ……』『ああ、こうやってホテルに入るんだ……』『ああ、こうやってシャワー浴びるんだ……』『ああ、こうやって服を脱がすんだ……』と私は感心しながら水が地面に向けてゆっくりと流れる様に当たり前に彼とセックスをした。でもその時の私にとっては誰かとのセックス自体当たり前のものでは無かった。セックスをしている間も私は何度も思った。『ああ、こうやって頭を撫でるんだ……』『ああ、こうやって胸を触るんだ……』『ああ、こうやって……』

 私の一人目のセックスは私が高校生で初めて付き合った彼氏としたもので、それは彼氏にとっても同じだった。私たちのセックスは、初め緊張で何が何だか分からず、そしてしばらくワクワクとドキドキの入り混じった時間になり、そして一年かけて日常になった。彼のセックスは少しずつ雑になった。……と思う。私にはそれが雑なのかどうかよく分からなかった。他に経験も無かった。
 ただ何となく時間が短くなり、自分を『Sなんだ』と言う彼の少しだけ乱暴で単調なセックスは、私には時々痛かった。彼は自分がSだと言ったが、私は自分がMなのか分からなかった。Mではないというのでもない。乗れる時間もあれば、乗れない時間もあった。でもほとんどの場合とりあえずセックスはできた。

 セックスの時彼氏は私より気持ちが良さそうだった。そして私は、私より彼氏の方が気持ち良いのだろう、となんとなく思った。真紀さんはそういう私に何度も『もったいない』と言った。

 もったいない。セックスは楽しくて気持ちが良いんだよ。

 どうなのだろう?分からなかった。だから大学生になって一人目の彼と別れてから、真紀さんの誘いに応じた。

 私は、二人目の彼が私の体にとてもゆっくり触れるのを見ていた。私は彼が乳首に触れる前に肋骨から胸の輪郭をなぞり、頬にキスをしながらようやく乳首に触れるのを見ていた。それは私の知らない動きで、体は気持ち良さを伝えていた。背筋が徐々にゾクゾクする気持ち良さを初めて知った。二の腕やふくらはぎに初めて快楽を感じた。彼のその手つきには私の知らない彼の女性経験があった。

 一方で私にはそれはただ天国の時間というわけでもなかった。そこにはまだセックスに慣れていないからこその単純な異物感や怖さがあり、また彼の丁寧な触り方にはくすぐったさや少々の気持ち悪さも伴った。私は腰回りをゆっくりと触られるのは苦手だった。肋骨あたりや頬へのキスも苦手だった。

 彼は行為中、それまでとは打って変わってほとんど喋らなかった。私は自分の感じている事を上手く相手に伝えられなかった。実際に彼が行為を行っているのは私の体に重なる別の誰かなのかもしれない、とも私は思った。ところで、私が二人目の彼にフェラチオをしようとすると、彼は少し驚いた様だった。『……慣れてるの?』

 フェラチオって、慣れてる事になるのか?

 私は何も知らなかった。私には一人目の彼のセックスが下手なのかも分からなかったし、正直な所おすすめされた二人目の彼のセックスが上手なのかも分からなかった。私は二人目の彼とセックスをして、私自身がどういう風に相手に触れていいのかよく分からなくなってしまった。

 私は私のしているセックスがどういうものなのか分からなかった。そしてその事が、なんだか放っておけなかった。 どうして?……その事も知りたかった。とにかく、色々な人に色々な場所で性も恋も語られている。でも私は私にとってそれがどういうものなのかを知っていられる様になりたかったのだ。

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